ヒィ:ラナーシャさんといっしょに
召喚士とジンがルフに怒られる話。
我が主が参加している隊商は、十数日前に白輝の都というとこに着いた。
この都は、これまたなんだか厄介な町で、
塩湖の側にある町なのだが肝心の塩をある商人が独り占めしているらしい。
なんだかいけ好かねえ町だ。
まぁ、それはこの際、この町自体の問題なので置いておくことにする。
それよりも問題、我が主…っつーか、ヒィだ。
あいつと来たら、治安の悪いこの町に着いてからというものビクビクブルブル…
それでも護衛かっつーくらいビビりまくりやがる。
どこぞの、年のわりに外見も態度もでかすぎる金パツのガキほど
態度をでかくしろと言っているわけじゃあねぇが、
多少なりとも護衛なのだからあの態度はないと思う。
しかしまぁ、
どんだけ俺があいつを心配しようが、
どんだけ俺があいつを育てたという過去があろうが、
俺はルフであいつは召喚士である事実は覆らない。
なので、俺は、極力あいつに口を出さないことに決めている…。
『うそつけーぇ。すっごい口年増じゃーん!』
『じゃーん!』
風のルフ達がけらけらと笑う。
…よし、要望に応えて説教してやる。そこに直れ。こら、逃げんじゃねぇ。
そう、極力口を出さないことに決めているのだ。
「……あ、ラナーシャさん…」
「あ、ヒィさん。こんにちは」
今日も今日とて、毎度のことのようにビクビクしながら町を歩くヒィは、
白輝の都に着いてから出会った芸人で地のジンのラナーシャと遭遇した。
このラナーシャという女、周囲に花が浮かんでいるようなやつで、
気弱を絵に描いたようなあいつはその波長が好きらしく、それなりに懐いている。
人と普通に話せるようになったのは良いことだ、と思う。
うん。
『わー、ラダルジャおかんみたーい!』
『みたーい!』
風のルフ達がまたけらけらと笑う。
…よし、さっきの説教じゃ足りないのか。足してやる、そこに直れ。
同じような白い建物が立ち並ぶ町並みと、
治安の悪さへの警戒と、
お馴染みの考え事と、
もろもろによって実は迷子になってたヒィは知っている顔に出会えて安堵する。
……つーか、この程度で自己位置を見失うとはなってねぇ。今夜は説教だ…。
花が飛び交うような女と世間話を無難にこなす我が主は、
意を決したように言い出す。
ちなみに、意を決するまでもう随分と世間話をしながら町を歩いた。
「あのっ…、ラナーシャさん…っ!」
「はい?どうかしましたか?」
ラナーシャはにこりとヒィに応える。
「あの…えっと…変な話かもしれませんが…、」
「はい」
「…えっと、その…」
もごもごと言葉の続かないヒィを花の舞うような笑みを崩さずにじっと待つラナーシャ。
つーか、隊商宿の位置を聞くくらいさっさと聞きやがれ…っ!!!
…っと、俺は極力口を出さないのだ。危ない。
思わずとんかちの中から出そうになる自分を抑える。
さぁ、さっさと聞きやがれ!
「…あの…、…隊商宿の位置……分かります、か…?」
おぉ!か細い、虫の息のような声だが、やっと言いたいことが言えた!
ヒィの言葉を聞いたラナーシャは少しあたりを見渡し、ヒィに向き戻る。
「…そういえば、何処ですかねぇ?」
「!」
なん、だと!
「えっと…宿を出てきて、それでスークを見て回って…それで、ヒィさんと会って、歩いて…」
衝撃発言をした女は今までの自分の行動を振り返る。
「宿からスークまでの道は覚えてるんですけど…」
「えっと…あー…」
つまり、この女は、ヒィと話して歩いているうちに道が分からなくなったようだ。
「…えーっと…」
「ヒィさん、宿の場所分かりますか??」
「えっ……俺も、その…」
「そうですかー…どうしましょうか」
二人でぽつんと途方にくれる。
つーか、この女、地のジンなんじゃねーのか…?
地のジンなんだから、立地くらい分かっておけよ…
つーか、むしろ、ヒィがもっと早くこの話を切り出してれば
二人で迷子はなかったんじゃねーのか…?
おまえら…おまえら…
『極力、口出さないんじゃなかったの?』
『たの?』
風のルフたちが笑うようにしてささやく。
「極力っつっても限界があんだよっ!!!」
「ラダル、ジャ…っ!?」
「…ルフさんですか?」
突然とんかちから出てきた俺にヒィは一瞬驚いた顔をするが、
すぐに「まずい…」という顔に変わる。
まずいと思うならもうちょっとどうにかしやがれっ!
ジンの女は相変らずの顔で俺を見上げた。
さ ぁ 、 て め ぇ ら そ こ に 直 れ … !
* * *
「ほー、えーりー、見てみ。町全部見えるぜ?」
「へぇ…なんかある?」
マージードが高台から身を乗り出すようにして、町を見下ろした。
そのうしろをエイリがゆっくりと歩いてきながら、マージードに問いかけた。
「そうだなぁー・・・」
身を乗り出しながらきょろきょろと町を見渡す。
エイリもマージードの隣で、身は乗り出さずに、町を見下ろした。
「あ、」
「なに?」
マージードが声をあげる。
エイリはマージードの方は向かず、町を見たまま彼に問いかける。
「面白いもんあったぜー♪」
「…?どれ?」
ぴっとマージードがマニキュアをした指をある方向に伸ばす。
その先には、
「召喚士とジンがルフに説教されてる」
ラナーシャさんと、エイリくんお借りしました。
多分、ラナーシャさん(女性)がいるので、放置せずに助けに行くと思います。
ヒィだけだったら面白がって見てるだけ!
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