第三夜/鏡のルフをつかまえろ! (第5回)



目の前の光の球…ルフがゆらゆらと姿をゆらした。

「…そう…じゃあ、君は逃げてきたんだね…?」

隊商が街についてから、とりあえず街の構造を知ろうとふらふらと歩いていたヒィの目の前に
光の球が飛び込んできたのはつい先ほど。
この光る球のようなルフは、ヒィのそばにいた同じルフであるクルルに助けを求めてきた。

「無害なルフを傷つけようとするなんて許せないなぁ…この子が何かしたわけでもないのに」

そう言いながら、光る球にそっと手をよせ、撫でるようにする。
実体があるのかないのか、撫でる手はすり抜けるがヒィは気にしていないようだ。
土のルフ・クルルは匂いを嗅ぐように光の球に鼻を寄せていた。見慣れないルフに興味があるようだ。


「あっ、いたーーーー!!!」

「っ?!」


突然後ろからまだ少し高い少年の声がする。
ヒィも、また、彼の手の中にいた光の球もびくりと驚く。
反射的に目をやると、見覚えのある双子の踊り子の少年たちがいた。
光の球は、驚いたと共にヒィの手の中からすごい勢いで飛び出していった。

「あっ」

自分の手元から離れていく光の球を目で追う… 光の球の行き先は…、街中か。
街の外に逃げようとしたなら危ないので止めたが、街のほうに逃げていったので追うことはしないでおいた。
捕まえたいのならまだしも、目的もないのにあまり追うのも可哀相だろう。

「あー!!また逃げちゃった…!」
「またかよ…」
双子は落胆したように口をそろえて疲れの色を見せた。
落胆していた双子の一人がこちらに視線を向けた。

「……あれ、えーと、たしか…ヒィ、だっけ?」

しかし、自分の名前を呼ばれはしたが、ヒィには彼らの名前が分からなかった。
いや、正確に言えば名前自体は分かるのだが…
どちらがどちらか見分けがつかないことが問題だった。双子ならではの問題だ。
「あー、はい、えっと、そ、そうです……」
とりあえず自分の名前を呼ばれたことに返事をした。

「それにしても… もう少しで追いついたのに…惜しかったねー、アスラン」
…そうか、あちらがアスランでこちらがアーレフ…よし、覚えた。
これで目を離したうちに入れ替わらない限り大丈夫だ。

そういえばアーレフは今、「もう少しで追いついた」と言った…ということは、

「……も、もしかして…、さっきの子は君たちのルフ…?
 あれ、でも、何かに憑いてるルフじゃなかったよなぁ…」

二人の言動に、思ったことを率直に二人に聞いてみた。
あのルフは何かに憑いているような感じではなかったし、でも、二人はあのルフを追っているような口ぶりだ。

「ぼくたちのルフじゃないけど…探してたんだ」

「探して、た…?」


事の始まりから現状までをかいつまんで説明を受けた。
つまりざっくりと言うと、光の球本人の同意が得られればイヤスが"入れて"くれるとのこと。

光の球自体は、先ほどの感じだと双子のことを嫌ってはいない様子だった。
ただ、今逃げているのあのルフが少し臆病であるがゆえ。つまり、嫌いで逃げているのはなく、驚いて逃げている。
なので、優しくゆっくりと接すれば逃げないだろう…たぶん。
それを考えるとほぼ確実にイヤスは"入れて"くれるだろう。

つまりそれは……

「ルフを封じる瞬間が見れる…!」

思わず思考が声に出てしまった。

「ん?なに?」
アーレフがヒィの思わず出た声に反応した。
「え、あ、いや、なんでもないです…!気にしないでください…っ」
思考が声になったのが少し恥ずかしく、思わず首を全力で振りながら否定をした。

自分でルフを封じることは、召喚士をしているのでよくあることである。
しかし、召喚士をしていると、他人がルフを封じるところというのは中々目にすることができない。
隊商の護衛としている召喚士はもともと皆自分のルフを持っているし、ルフを封じようとする場面に立ち会うことなどない。

なので、是非自分以外の誰かがルフを封じるとことに立ち会ってみたい…!!


「どうしようか…」
「うーん…そうだなぁ…」
双子はこれからのことを相談しているようだった。

「あ、あの……!」
相談している双子に声をかけると、そっくりな顔が同時にこちらを向く。
同じ顔の二人にじっと見られたので少しひるんでしまったが、かろうじて続きの台詞を搾り出す。

「…俺も、探すの手伝いますよ…。一応、召喚士だし…役に立てるかもしれない…」

そういうと、一人はぱっと明るい顔になる。
「わ、ほんとう?!ありがとうー!」

しかし、もう一人は少しふてくされた顔をしながら言う。
「というか、さっきのはあんたが逃がしたに近いし…」

アスランが言うことはもっともである。
先ほどヒィがきちんと捕まえておけば手間が省けたのは事実だ。
「あー… さっきのはすいません… 二人が探してるって知らなかったん、で、す…本当にすいません…」
もごもごと、視線を上に下にと動かしながら言う。
語調はどんどんと小さくなり、最後の言葉はほぼ消えかけている。

その仕草にアスランがため息をつく。

「まぁ、過ぎたことはもういいよ。…早くいこう」
アスランはそう言うと、先に光の球が逃げたほうへと歩き出した。
「うん、そうだね。ヒィ、いこう!」
歩くアスランを目を少し追ったあと、ヒィに向きかえりアーレフが笑顔で言った。

「…はいっ」



余談
「あ、そういえば。ヒィがいるならわざわざおじさんのところに戻らなくてもいいんじゃないの?」
「そうだな… あんただって召喚士だもんな。ルフ入れられるか…」
「あっ、いえ…!イヤスさんのところには行きましょう!!是非!」
「なんで?」「なんで?」
「え、あ…いや……その…」
封じるところが見たいとは……言えない。

>アスランさん、アーレフさんお借りしました!