マジド・ポストーチ:第5夜、青タイルの街にて。”手紙”は誰に渡すものなのか。


お節介の話。





商品の手配やら確保やらを露店街を巡ってしているといつの間にやら青ばかりがきらりと目立つ街は夕焼けの赤が混じり少し菫の色のようになっていた。
そんな街の中、白藤色の髪を見つけた。

「ポチ先生、何してんのー?」

「あ、マジドくん。こんにちはー!…もうこんばんはかなぁ?」

白藤色の髪の持ち主、ポチ先生は少し挨拶を迷いながら俺に返事を返した。
話しかけたときには気付かなかったが、彼女の前には俺の見知らぬ男…おそらくこの町の住人が立っていた。

「あ、では、手紙届けていただきありがとうございました…」
男は少しおどおどとした口調でポチ先生にそう言う。
「先生はお届けしただけだから!本当のお礼は手紙を描いてくれた子にちゃーんと言うんだよ?」
彼女は自分よりも少し年上に見れる男にいつもと変わらない口調でそう言い、諭した。

彼女はおおよそ医者以外の人すべてに同じように接する。
その態度から、俺は彼女の中の世界は『医者』か『患者』かで大別されていると見ている。例外が若干名いるようだが…。

諭すポチ先生に男は照れたようにはにかみながらその場を後にした。

「何、先生、手紙でも届けてたの?」
「うん、白輝の都で診てあげた患者さんが青タイルの街に出稼ぎにいった恋人に届けてほしいって」
にこにこと心底嬉しそうに立ち去った男を見送りながら彼女は言う。
この人は大概誰かの世話を焼くことが好きだ。

そんな人の世話よりも自分のやらなきゃいけないことがあるだろうに。


……ふと、少し前に会ったアイツの言葉を思い出した。
俺はアイツの態度も先生の態度もあまり納得いっていないので、少しカマをかけてみることにする。

俺も大概誰かの世話を焼くことが好きだ。


「なー、ポチ先生。ラル先生の弟に手紙届けないん?」

至って普通に、変な勘ぐりを見せないよう、聞く。
その言葉を聞いてポチ先生は少し困った風にこちらを向いた。
「届けられたら届けてるよぅ。でも、探しても中々見つからないんだもん」

しょうがないよ、とでも続けそうな言葉で彼女は台詞を閉めた。
見つからない……ねぇ。その目は何を見ているのやら。

「でもさぁ、ちゃんと……」

『マジド』

ポチ先生に更に言おうとする俺を、俺のルフのユニャが制止する。
「……んーあー、分かってるって……」
「? どうしたの、マジドくん?」
急に言葉を止めた俺をポチ先生は不思議そうに見つめた。
ペンダントより表に出ていないユニャを彼女には確認することが出来ず、俺が唐突に言葉を止めたように見えているだろう。

「ん、もう商談の待ち合わせの時間だって。ルフに怒られちゃった」
笑顔で彼女に返すと、彼女もまた不思議そうだった顔を笑顔に戻した。
「そっかー、お仕事大変だねぇ?」
「いんや、それほどでもないよー。楽しいもんよ?」
「そっか。じゃあ、お仕事頑張ってきてね」
「はいよー。ポチ先生も頑張ってね」
そう言いながら手をふると、にこりと笑って手を振り返してくれた。


先ほどよりも赤みが強くなり、暗い色になった街を進む。
商談なんかないけれど、とりあえず言ってしまったのですぐには宿に戻れない。

『マジド、お節介はあまり感心できないぞ。人には人の事情があるのだから』

人の通りがないところまで来て、ようやくユニャがペンダントから姿を現した。
「だって、なんかまどろっこしいんだもーん。だってー目の前にいんじゃんー」
はぁーと深くため息をつきながら言うと、ユニャに軽く頭を叩かれた。
「いたた、何すんのよー」
『目で見えることと、それを認識することは異なるぞ。分かっているよな?』
小さな子供をたしなめるように言われると、反論の言葉も出なくなる。

「あー、大人ってめんどうー!!」

そう叫ぶとユニャにまた軽く頭を叩かれた。








心理戦は得意だけど、手を出すなといわれるともやもやする。
だって大人ぶって見えても本当は子供だもの。
本人は大人ぶってるつもりも大人ぶるつもりも毛頭ないのだけれど。
だから言いたくなるわけだけど、大人なルフに阻止される。

大人ってば面倒。