ポストーチ:第4夜、白輝の都にてミロさんとファルさんと。


料理を作る話。




何を買おうか。

何でも良いとは言ってたけど、
出来るならやっぱり食べる人が好きなものがいいだろう。

そして、なおかつ、私が作ることが出来るもの…


「あれ、ポチちゃんどこいくの?」
ぶつくさと呟きながら部屋を出ようとすると、同じ部屋にいたファルシードに止められる。
「んー、お買い物」
「ふぅん…買い物かぁー。何買うの?買ってあげよっか?」
買い物リストを頭の中で並べているため、少し上の空なポストーチにファルシードはうきうきと話しかけた。

「ん…と、やっぱりお肉かなー…」
「肉?料理でも作るの?」
「んー…ミロくんにー…」
「ミロに?ああ、そういえば、そんな約束してたねー」
「うん、だから…お肉とー…栄養偏るから、野菜もかなー…」
「そっか。じゃあ、俺もポチちゃんの手作り料理食べよーっと♪」
「あと、穀物も……って、あれ?」

リストを構築しているといつの間にか食べる人が増えていた。



「ミロー?」
ひょいっとファルシードはミロの部屋を覗き込んだ。

「ん…ぁ?」
「あ、寝てる。ほらほら、起きてー」
「んん…?あー、あんたか…」
ミロは部屋のまんまん中で大きい体を投げ出してちょうど昼寝をしている最中だった。
「真昼間から昼寝ー?街にでも遊びに行ったらいいのに…色々面白いよー?」
ミロの側まで歩み寄って、見下ろすように隣に立ったファルシードは言う。
「うっせ、俺がこの街に出たらどうなるか分かってんだろ?」
欠伸をかみ殺しながら上半身を起こしたミロは目の前の詩人に愚痴る。
「いや、それはそれで俺が面白いから」
「お前……」
心底楽しそうに言うファルシードの何処までが本気なのか、ミロには計り知れなかった。

「で、何しに来たんだ?まさか昼間っから飲むわけじゃねぇだろ?」
がしがしと頭をかきながら言う。
窓から注ぎ込む日の光はまだお天道様が空の上にあることを示していた。
「それもいいけど、今日はポチちゃんのお使い」
「センセの?」
ミロは何か医者である彼女の世話になるようなことをしただろうかと思考をめぐらせる。
「ほら、料理作るってやつ。なんだか張り切ってたよ〜」
「あ、あーそれか。本当に作ってくれんだ、センセは優しいなー」
先日天幕でした口約束をやっと思い出し、ミロは腕を組みながらうんうんと頷いて言う。
「だぁよねぇー」
袖口を口に当て、表情を隠しながらファルシードも頷く。

「あ、そういやセンセは?なんであんたが呼びに来るんだ?」
肝心のポストーチがいないことにようやく気付いたミロはきょろきょろとあたりを見渡す。
が、どこを見ても目の前のファルシードしかいなかった。
「ポチちゃんは今買い物を終えて料理。で、俺がお使いでミロを呼びに来たの」
「そうか。じゃあ行くかー」
ファルシードから事の次第を聞いて、ミロはようやく立ち上がる。
彼は2メートルを超す長身で、一気に目線がファルシードよりも高くなる。
「センセの料理かー、どんなんだろうなぁ」
のしのしと宿の部屋から出たミロは呟く。
「楽しみだねぇ〜」
隣を歩くファルシードは、ミロの呟きに返事をした。
「あれ、あんたも食べんのか?」
「もちろん」
にこにこと嬉しそうにファルシードは返事をした。







ファルシードに案内されながら隊商宿の食堂に入る。
食事の時間を避けて利用しているので、食堂には人気が全く無かった。
そんな中、どこからともなくパチパチと火を焚く音と、肉が焼けるにおいがする。
「お、肉か。いいな…センセーは〜っと」
音とにおいの元は厨房で、目をやるとポストーチの後姿が見える。

「ポチちゃーん、呼んできたよー」
「うっひゃあ!」
ファルシードが声を掛けると、ポストーチは明らかに驚いた声を出しながら座っていたイスから勢いよく立ち上がる。
座っていたイスががたんと大きく音をたててうしろに倒れた。
何が起こったのかわからないという表情をしながらしきりにあたりを見渡した。
すぐそばに立っていたファルシード・ミロの姿を確認するとようやく事態が飲み込めたようで、
「ね、寝てない!寝てないよ!?!」
誰も何も言ってないのに必死に否定をしながら、よだれの跡をごしごしと手でぬぐった。
ミロはそんなポストーチを見下ろしながら、
「なんか、センセが料理苦手なわけが分かった気がするなぁ…」
誰にともなく呟いた。


その後、ポストーチによって厨房を追い出された二人は
食堂でぼんやりと料理が出てくるのを待つ。

「まだかなぁ、なんかお酒でも飲むー?」
「お、いいなぁー」

そんな会話を繰り広げては、

「真昼間からそんなの不健康だよ!だめですっ!」

厨房から飛んでくる声に叱られた。



「じゃじゃーん!完成したよぉ!」

しばらくすると、凄そうな効果音と共に大きな皿を持ったポストーチが厨房から出てきた。
皿には、ひよこ豆を煮たものと野菜と、串刺しにして焼いた肉…いわゆるケバブがドンと乗っていた。
それはもう、ドンと。
串刺しにしたひとつひとつの肉がとてもざっくりで均一性がなく、ごろっと大きい塊のままついていることも、
ドンと加減が増す原因になっていた。

まるで容姿に似合わない豪快な作りの料理が出てきて、ミロはしばらく料理と作り手を見比べていた。
「……こりゃあ、あれだなぁ…」
「え、なに?なになに?」
何かを言おうとしたミロを期待の眼差しで見つめるポストーチ。
ミロはそんな彼女の視線に耐えられず、言おうとした言葉を呑む。

…とてもじゃないが、『男の料理だな』という感想は言えなかった。

「美味しそうだねー、冷めないうちに食べようか」

言葉を呑んだミロに代わって、ポストーチから大皿を取り上げながら笑顔のままでファルシードが言う。
「そうだね!出来立てならなんでも美味しいもんね!」
少しばかりの問題発言を発しながら、ポストーチはファルシードに同意した。


「いただきまーす」
「いただきます」
「めしあがれー!」

ポストーチが期待の眼差しで見つめる中、ファルシードとミロが一口目をぱくりと食べた。
もぐもぐとケバブを噛む。
不味くはない。
しかし、これはいわゆる、あれだ。
良い言い方をすれば『素材の味を生かした料理』というやつだ。

悪い言い方をすれば……


「どう?どうだった?」
きらりと目を輝かせながらポストーチが二人に問いかける。
「ん、あぁ、美味いぜ!」
「うんうん、美味しいよー」
嘘はついてない。
上手くはないが、美味いのには違いがない。
相当不味い肉を買ってこない限り、ただ焼くだけでもそれなりに美味いのだ。

カバブは香辛料で味付けされた肉をざっくざっくと豪快に切って、串に刺して、焼いただけ。
ひよこ豆を煮たものも、本当に煮ただけに近く、凝った調理がされていない。
野菜に至ってはちぎって飾っただけ。

それでもまぁ、材料に手を加えて食べ物を作っているのだから料理には違いない。
下手に調理して素材の味をぶち壊すよりは懸命な判断といえるだろう。

二人の返答に満足したのか、ポストーチは顔を綻ばせながら厨房に戻っていった。


「きっとこれ、調理過程の凝った料理をリクエストしてたらアウトだったろうね〜」
「あ、あぁ…腹にたまるもんって言っておいて良かったぜ…」

素材の味を生かしたケバブを口にしながら
厨房にいるポストーチには聞こえないようにファルシードとミロはぼそりと呟いた。

三人しかいない食堂には、
素材を生かした料理の匂いとポストーチのなんとも音程の発散した鼻歌のみが宙を漂っていた。







ファルシードさん、ミロさんお借りです!

天幕で料理をする約束したので勢いで書き上げた。
最初はアーリク先生も混ぜて宴会にまで発展させようかと思ったんだけど、
軽くキャパ超えしたので断念です…orz
むしろ、酔ったポストーチを文面で書ける気がしないよ!
ミロさんとの約束でファルさんがついてきたのは、ほら、もれなくです(何)
ミロさんとファルさんをセットで書いてみたかっただなんてそんなまさか!
ミロさんとファルさんで半分以上を占めているのは仕様です(何)

決して料理が下手なわけじゃないよ、ポチ先生は!
ただ、料理に関してはせっかちになっちゃうので、凝ったのが出来ないだけ!
多分、肉も最初は綺麗に切ってたけど、
「早くしなきゃ二人が来ちゃうかなー」とか「もしかしてお肉は大きめに切ったほうが美味しいかなー」とか
そんな雑念によって豪快仕様になった。

料理の作り方とか、本体こそよう知らんので、
厨房とか、料理とか、かなり捏造です。(何)
言い訳なげぇ!