「私、病気なの。」

屋根の一番上に座って、自分から話しかけてみた。

「なんのだい?」
「なんか、よくわかんないけど、すっごい病気なんだって。」
「こんな外に出てていいの?」「だめ。」

私が即答するとふしぎさんは少し笑った。

「だってこんなにすてきな夜なのよ?
 外に出ちゃいけないで外に出ないのはもったいないわ。」
「そうだね、僕も昼より夜の方が好きだよ。」
「昼はみんながいるからつまらないわ。」
「そうなの?」
「だって、みんな私より自由だもの。」

白く深く息をはく。
それを少し目でおうと、きんきらの星が少しだけ輝いていた。
なんのそくばくもなく、自由にきんきら。

「それは、ないものねだり?」

聞かれて思わずふしぎさんの方を見た。
彼の瞳もきんきらしてる気がする。

「ねだって悪いかしら?」
「無いよりは、ある?」
「そうね。」

悪いかいいかはふしぎさんは答えなかった。

「私は自由になりたいんじゃなくって、
 私にない自由が他にあるのがきにくわないんだわ。」

わがままでもいいから、おなじがいいです。
みんなを自由じゃなくすか、
私を自由にしてください。

「だから、みんななくせば、ないものねだりじゃない。」
「すごい論説だねえ。」
「うん、無理な事はわかってるわ。
 だから私は夜にここにいるの。」

みんな眠りというそくばくに抱かれ、
私は自由に夜を見つめる。

「じゃあ、この自由に飛び回る雪は?」

いつのまにか彼は立ち上がり、手を広げた。
手を大空に仰ぐ、というのかしら。
その彼のバックに自由に飛び回る雪が見えた。
雪を少し、見つめてみた。
でもそんなのまっくろな空に点を彩るものよ。
どう見ても、彼がメインだわ。

「ムードアップのオプション。」
「面白い答だね。」
「雪にしっとしても意味ないもの。
 だんぜん雪より私の方が自由だわ。」

手袋の私の手に雪がとまる。
すぐに、消える。

「そうだね…少しわかるかもしれない。
 実を言うとね、僕も自由じゃないんだ。」
「そうなの?」
「ある使命を任されてるのかもしれない。
 やる気はないんだけど、待ち望んでる人もいるかもしれない。」

ふしぎさんが、深く、息をはく。
意外と、せんさいかも。

「やりたくないならしなきゃいいじゃない。」

金色の瞳がまた丸くなった。
でもやっぱりすぐにもどる。

「そうだね、
 みんな無いから、それでもいいのかもしれない。」

それきり無言。
雪が音もなくふりそそぐ。
星が音もなくきらめく。

2人でしばし、自由をまんきつした。







夜が明けるのか、ほんのすこし空が明るくなってきた。
太陽もないのにふしぎだ。
いつも思うが、それが普通らしいので気にしない。

「じゃ、僕はそろそろ行くね。」

私が声をかける間もなく、彼は立ち上がると屋根のはじっこに歩きだした。
あぶなっかしいその足取りを思わず見守る。

「それじゃ、面白い一時をありがとう。」

それだけ言うと、となりの家の屋根にジャンプした。
ふしぎさんは見た目よりどんくさいのか、
着地に失敗して転んでいた。

夜が明け、何かにとらわれてしまったような彼に声をかけられなかった。

十分にジャンプと着地失敗をくり返し金色が小さくなっていった。

きっとそろそろお手伝いさんの朝食を作る音が聞こえ始める。
もう戻らなくちゃ。
自由の時間はおしまいだ。

小さくなった金色を最後に振り返る。

面白い一時というより、
例えるならばスパイスだ。

「かわらずに毎日送られる人生には変哲がひつようね。」

ぽそりとつぶやく。
彼への送り言葉というより、生活目標。

 かたん

開け放った窓からまたもとのそくばくの空間に戻る。

「ばいばい。」

ここではじめて、ふしぎさんと自由の夜に別れをつげた。
金色はすっかり見えなくなっていた。








定番(?)の病気の少女。
題名通り真夜中に一気に書き上げたので不安定。
ちなみに、サンが屋根の上を歩いていた理由は真夜中で補導されるから、です(笑)
入れそびれました。

みんな無ければ欲しいと思わない。
差が肝心?