求婚〜後日談
 
 
  
ある夜、平和に寝ていた俺の元に煙幕が投げ込まれた。
  
「うわっぶっぶ!!!」 
快眠していた俺だが、さすがに起きる。 
室内に弾幕だとか、そんな不条理なことをするやつは俺の身近には一人しかいない!
  
「何の用だよ!マジド!!」 
煙越しにうっすらと見える影に怒鳴りつける。 
影は一瞬びくりと反応する。 
…おかしい。こういう反応を、アイツはしない。 
「だ…だれ、だ…?」 
警戒しながら恐る恐る話しかけるが、相手は何も喋らない。 
数秒経って、俺はようやく風で煙幕を飛ばせばいいと思いつく。いざというときって頭が上手く働かないものだな。 
ふわりと風を発生させ、おそらく煙幕が投げ込まれたであろう窓から煙を噴出させる。 
ゆっくりと相手の姿が見えてきた。
  
「・・・・・・」 
「・・・・・・」
  
真っ赤な長髪にわりと派手めな化粧、そして派手めな服。の女性。
  
本当に誰だ。
 
  
この集落にはこんなやつはいないし、俺の知り合いにもいない。 
知らない顔だ。 
それが何故俺の部屋に煙幕を投げる。
  
「…ドって言ったわ…ね…?」 
「は?」
  
女はぶつぶつと喋っている。 
よくよく見ると顔が赤い。少し酒臭い。酔ってるのか…?
  
「マジドって言ったわね、いま」 
「・・・は?」 
俺は耳を疑う。 
なんだと、この女。 
あいつの知り合いか…? 
「ま…マジドを尋ねてきたのか…?」 
疑り深く女を見ながら俺は尋ねた。まともな返答が返ってくるような状態ではない気がするが。 
そこでようやく、その女の指にこないだ見たばかりな指輪と同じモノが収まっていることに気付く。 
あれ、マジドがもらっちゃったていうエンゲージリング…じゃね?
  
・・・ああ 
だから言ったのに! 
恋愛関係で勘違いしたり先走る女にロクなのはいない!
  
ふらりと女が動く。 
「あなた・・・」 
「…?」 
「マジドの彼女…ね」 
「は?」
  
いやいやいやいやいや!!!! 
ない、それはない!!! 
この女、酔ってるとはいえ、それはないだろ!!! 
まぁ確かに多少女顔なのは認めるが…っ 
だからって!ないだろ!それは!!
  
全身全霊で否定にかかろうとしたその時、 
「あなたのせいねっ!!!許さないんだから…っ」 
「げっ!」 
先に女に飛びかかられた。 
俺はべしょりと女の下敷きになる。酔っ払いの力というのはすごいものだ。 
「ちょ、待てって!冷静になれよ!俺は…」 
「許さないんだから…っ!!」 
「わ、ぶっ!ちょ!!」 
女はよく見ると火のジンだった。 
俺は毛先をチリリと燃やされる。こ、このままだと丸コゲだ…っ! 
弾き飛ばそうにも腹の上に重く圧し掛かられ、上手く力が入らない。 
本気で恨むぞ、マジドぉ…っ
  
「け、けけ、ケレスーっ!!!」 
「はい?」 
俺は自分の従者である風のルフの名を呼ぶ。 
ケレスはふわりと至って冷静に現れた。 
「…な、に、してるん、です、か…?」 
派手な女にマウントをとられ、燃やされかけてる俺に理解出来ないという表情でケレスはそう問いかけた。 
俺にだって理解できない!何故マジドの彼女として俺が燃やされなければならない! 
「うっせ!俺がしるか!コイツ飛ばせ!!」 
「はい、かしこまりました」 
一瞬大きな風が女に向かって吹き、女は後ろにころりと倒れた。 
その瞬間、俺は女のしたから抜け出す。 
「ゆ…るさない…っ」 
もう一度俺に飛び掛ろうとする女のうしろを素早く取り、 
「お門違いだっつーの!!」 
「うっ」 
首の後ろを思い切り叩く。 
すると女は気を失い、床に倒れ落ちた。
 
  
「〜〜〜〜っ・・・ふー…」 
俺も床に座り込み、安心と一苦労のため息をついた。 
ふわりとケレスが俺のそばに寄った。 
「どなたですか?この方」 
「俺がしるか!ったく、マジドのやつ…」 
「マージード様??」 
「マジドに求婚したやつだ、たぶん」 
「…はあ…」 
「んっで、逆恨みだろ?たぶん」 
「…はあ…」 
ケレスは上手く事態が飲み込めないように返事をした。 
だが俺だってよくわからん! 
「それで、なんでマシ様が襲われてたんですか?」 
「しるか!しりたくもない!」 
マジドの彼女に勘違いされたからなんて、口が裂けてもいいたくない。
 
 
  
その後、マジドを叩き起こしに行こうと思ったがそれより前に女が起きた。 
一度燃やされたので少し警戒したが、どうやら酔いはもう醒めたようだった。 
自分がどうしてここに来たのか覚えてないようだったので、今までのことを説明してやると平謝りしてきた。 
どうやら平常時はまともな女のようだ。でもまぁ、酒は本音が出るからな。酔ってる状態が本音だろ。 
「マジドに会わせてやるよ。あいつに直接文句言えよ」 
「え?…え、遠慮しとくわ…」 
「は?なんで?」 
「こんなことしちゃって会わす顔がないわ… 
 こんなんじゃ、振られちゃって当然ね…」 
そう言ってしくしくと泣き出す。 
おいおい、今度は泣き上戸か。俺にこの状況をどうしろってんだ。 
おろおろとしていると、ごめんなさいねと一言言った。
  
本当にごめんなさいだ。 
まじに勘弁してほしい。
 
 
  
次の日、マジドに昨夜の出来事を言うと笑顔でキレられた。 
「言っていい冗談と悪い冗談があるでしょ? 
 マーシーといえど、女性の悪口は許さないよ?」
  
本当に、こいつは女を神聖化しすぎてる。 
いっぺん背中刺されるといい。 
  
ちなみに一応族長…母さんに報告すると、 
「あら、それはいい気味ねぇ、マシ」 
そう心底楽しそうに笑った。 
何故こんな女が身近にいてもあいつはああも女を神聖化出来るのかとても疑問である。
 
 
  
 
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