薄れ行く意識の中で思った事。


   嗚呼、これ以上『私』を増やしてはいけない。





何も聞こえない。何も見えない。
もちろん私が身体障害なのではなく、まぁちゃんと言えば聞こえてるし、見えてるのだけれど。
びゅうびゅうという耳に叩きつけるような音。白い物体。先は闇夜。
それ、だけ。

雪。そう、吹雪。
お世辞にも完璧とは言えない防寒着のおかげで感覚麻痺。
薄いタイツである足など、凍傷を起こしているだろう。
…だろう、なの。
推測の域を出る事はない。
視界に入らなし、触れないので確認のしようが無いのから。
転んで足を取られてから体の半分は雪に埋もれていた。
そんな状態で凍傷にならない方がおかしいだろうな。
でも、目で確認出来ないからさ。
昨日までの寝る場所も食事もろくに無い半幼児虐待な生活が愛おしいわけはないけど、現状を信じたくないのかもしれない。
少しでも、自分を見捨てた母を信じていたのだろうか?
あーあ、なんてバカなんだろう、私は。

雪にずっぼりと入り込み、もう歩けない。


こんな小さな子供ほっぽり出して、
『世界を救う為に太陽を探して来い』
だって?
ふざけないで。馬鹿も休み休み言って欲しい。
そんなに世界を救いたいのなら自分らで行けって感じ。
『お前にはその資格があるんだ』
だって?
戯れ言もたいがいにしてよ。
その「資格」はお前らが無理矢理押し付けたぺらいモンじゃない。
影でこそこそ言ってたように忌まわしい印なんじゃないの?
『お前にしか出来ない』
嗚呼、もう。
文句を言う事にさえ疲れる。





でも、
でも、でもだよ?
世界で今の私みたいに寒い人はいるワケで。
こんな風にこのまま死んでいく人もいるワケ。

ちょっと可哀想じゃない?

あぁ、自分美化じゃないよ。
実際世界はこんなワケだし。
やっぱり太陽は必要で、それを探す人も必要なのかも、
とか。

思い立つのは簡単でも、
決意は簡単でも、
実行は難しいよね。

でも私は、


         を   なきゃ。








私には名前が無い。
理由は分からないが、付けてもらえなかった。
だから私は私に名前を付けよう。
安直でも、
名前を呼ぶ度思い出せるから。



寒いという感覚が失われ、かわりに睡魔が襲って来た。



段々と薄れ行く意識の中で私は私に名前を付ける。
私が私であるために。
これは、自分の意志だ。





私は、探し人。
サーチ・・・



「だいじょーぶかーぁ?」



声が遠くに聞こえた。
薄れ行く意識を懸命に引き戻し、声の方を見る。
でも、目の前はまっくら。


「だいじょーぶぅ?」

もう一度声がした。
今度は声は近く、うっすらと、本当にうっすらと人影が見えた気がした。


でも…


ああ、もう限界…



懸命に戻した意識はあっさりと遠のいてゆく。

私は、何処へ、行くのだろう







where do I go ?