サンは町を一望できる高台を目指した。

どの町でも早急な用事がなければます一番にその町の一番高いところを探すのがサンの習慣だった。
そこで一日ばんやり過ごす。
他人から見ればこんな寒い中わざわざこんなところで一日を浪費するなんてよっぽどの暇人かバカだろう。
けれどサンはそこにいるのが好きだった。
そこでその町の暮らしを見るのが好きだった。

この町では今目指している高台。
その高さを証明するが如くの長い階段。
サンの鼻は赤かった。
「急な階段に雪は危ない…」
彼は先ほど階段の中腹あたりで転んで、アクロバティックに一段目までリターンするところだった。そんな苦労を乗り越え上りきると、サンは長く息をひとつ吐き出した。
そして今上ってきた方に振り返る。
「っはあ…」
思っていた通り、こじんまりとした町はサンの視界にすっぽりと収まりきった。
ほつりほつりと灯る電灯が蛍のようだ。
赤レンガの同じつくりをした民家のいくつかの煙突からは煙が出ている。
そして、きっちりと防寒具を装備した子供が家路に着くのが見え、そろそろ昼飯時である事を思い出した。
だが、サンは階段に腰をかけ、全ての子供が自分の家に帰り着くのを見守った。
寒い中扉の前に母親が立ちその前に子供がいる、指定された時間より遅れてしまったのか怒られていた。
そんな光景を美しい絵画でも見るようにサンは見ていた。

「あっれ?どうしたぁ、お前帰んないのか?」

ふいに背後から声がした。
てっきり誰もいないと思っていたのでサンはびっくりして思いっきり振り返った。
「っと…、見かけない顔だなぁ。そんなにオドロクなよーぅ」
まず目に入ったのは深紅。
よく見るとそこにいたのは深紅の髪、深紅の目、深紅の服…全身深紅で、スコップをかついだ男性とも女性とも言いづらい、へらへらと笑う不思議な人物だった。
暗い雪の中に浮かび上がる美しい深紅にサンは目を奪われた。
「オマエ、この町の子じゃないよな?」
さくさくと雪に跡をつけ、歩いてきた深紅はサンの前にしゃがんだ。
「あ、はい…さっきこの町に…」
「引越し?まっさかなぁ、聞いてねーし…あ、親戚でもいんのか?」
「いえ…えっと…」
サンは迷った。
今までにも体験した事だが、宿を取る際など非常に説明が困るのだ。
単純に『旅をしています』と言えばいいのだが、必ずと言っていい程『嘘でしょう?』や『こんな小さいのに、親は?』や『どうして?』という返事が来るのだ。それで更にめんどうな事を呼ぶのは目に見えている。
「違う、か。じゃあ、ヒトリタビか?」
「あ、はい…!」
正答が出てしまい、思わず言葉が出てしまった。
ちなみに正確には一人ではないのだが…。
「ほーぅ、マジでか!奇遇だな!」
「え?」
「オレも旅の途中♪」
へらっと笑いながら同士だな、とサンの手をつかむとぶんぶんと振った。
「さっき来たばっかならメシまだだよな。オレ今からだから一緒に食わね?」
珍しく押され気味なサンは首を縦に振らずにはいられなかった。




「ヘイ、マスター。こいつヒトリタビなんだって!」
深紅の人はサンを宿の主人の前に楽しそうに突き出した。
宿の主人は至って冷静に差し出されたサンに話しかけた。
「そうかい…それは大変だったねぇ、こんな寒い中」
「い、いぇ…」
サンには探し人である代償に感覚が無い。
だから寒い熱いというのはわからないのだ。
「謙遜すんなって!ほら、だからマスター、昼飯!」
「いたたた…痛いですよ…」
深紅の人がサンの頬をぐいぐいと引っ張りながら主人に叫んだ。
主人はにっこりとその様子を見ながら、はいはいと厨房へと入っていった。
こじんまりとした食堂にサンは深紅の人と二人で残された。
ぱっと頬の手が離される。
「お前、名前は?」
「サン…サーチ・サンです…」
サンの口から出た言葉に深紅の人は目を輝かせ、サンの背中をばしばしとたたいた。
「へぇ!面白い名前だな、このご時勢に太陽探しなんて名前つけるなんて!
 いや、このご時勢だからこそ…か?」
深紅の人はニヤリと笑う。
サンはそれを間近で見て少し背中がぞわりとした。
「あ、わりぃな、笑ったりして。良い名前だよ、夢も希望もあって!」
「・・・」
今度はへらりと笑い、サンの頭をくしゃくしゃとなでた。
深紅の人はフォローで言った言葉だろうが、ありえないものを探すサンにはただの皮肉にしか聞こえなかった。
「あ、オレはフレディ。フレディ・A・ジェイソン。ヨロシクな」
「…よろしく…」
サンは、深紅の人・フレディの手をおずおずと握る。
握ったのを確認するとフレディがにんまりと笑った。
「よろしく+握手は友好の証!オレらはもーぅ、とっもだち〜♪♪」
「えっ?!」
歌うようにフレディが言った台詞にサンは驚いた。
「ますた〜、ごはんまだぁ〜?♪」
「ちょっ、フレディさ・・・!」
歌いながら暴走するフレディを止めようとしたが、彼はサンをするりと避け、厨房へとスキップで消えていった。


サンに見えないように角を曲がったところでぴたりと止まるとフレディは虚無を見つめる。
「サン…な」
一瞬真面目になるがあくまで一瞬だけで、次の瞬間にはふっと顔をほころばせた。
「アイツの話のやつか…な?だとしたらなんたる偶然だ!へっへっへっ、がんばろう!」
へらへらとした顔で笑いながらまた鼻歌でスキップを始めた。


遠くにフレディの鼻歌が聞こえる。
サンはこじんまりとした食堂に残された。
…が、一人ではなかった。
「ぷっ?」
可愛らしいころころとした高い声。
「あぁ、ピエラ。ごめんよ、アホっぽい変な人のペースに巻き込まれてすっかり忘れていたよ…」
フレディがいないのを良いことに悪口を言いながら周囲を見渡し、ストーブがちゃんとついてることを確認するとするりとマフラーをはずした。
すると襟元からぴょんっと彼の小さな相棒ピエラが飛び出してきた。
鈴をちりちりならしながらくるりと旋回してサンの元に戻る。
「ピエラ、寒くはないかい?」
「ぷ〜♪」
「それは良かった…」
くるりくるりと体を動かすピエラを見守りながらサンははずしたマフラーをテーブルの上に置き、灰色のダッフルコートも脱いでイスにかける。そしてそのイスに自分もぽすりと座った。
ふいにテーブルに立てかけたスコップが目に入る。
そういえばフレディが持っていたような気がするから、フレディのスコップであろう…
そこでふと疑問が浮かぶ。
「…旅人なんだよね…なのに、スコップ?」
「何々?オレにキョウミシンシン?」
「わっ!!」
スコップとサンの間に深紅が急に割り込む。厨房に行っていたはずのフレディだ。
にんまりとサンを見つめる。サンは気配もなく目の前に現れたのに心底驚いてばくばくの心臓を押さえようと胸に手を当てた。
「コレは、オレの相棒vマイスイートハニーv」
ひょいっとスコップを持ち上げると柄のあたりに愛しげに頬ずりをする。
「は…ぁ…」
スコップに頬ずりする彼を呆れ顔で見つめるサン。そんなサンに気付くとフレディはむっと顔をしかめる。すっとスコップを呆れているサンの顔の前まで近づけると、スコップは雪もかけるしソリにもなる、とスコップの素晴らしさについてサンに説く。そして最後に付け加える。
「人だってコレで殺せる」
冷ややかな微笑み。
スコップはサンの目の前にあった。
背筋が凍り、飛びのこうとしたが、瞬きのうちにどこからかピエラがサンの盾になるようにサンとフレディの間に立っていた。
「…シュー」
威嚇するように口の中から煙を吐く。炎をためている証拠だ。
暖かな食堂に冷たい空気が流れる。
ピエラの威嚇音が響く食堂に厨房の調理の音が反響して届く。
全身全霊で敵対するピエラを見、フレディが冷ややかな笑みをにこりと溶かす。
「ほら、降参!なーんもしねーって!」
深紅がぱっとバンザイのポーズをすると、彼の手のうちからスコップが音をたてて落ちた。
しかし、ピエラはまだフレディを睨んでいた。
「…ピエラ、ありがとう。大丈夫だから」
「…ぷ」
サンが手を伸ばすと、ピエラは彼の手に従いその内にすぽっと収まる。サンはピエラを落ち着かせるようにゆっくりと彼女の頭をなでた。
サンはあんなに威嚇するピエラを久々に見た。こうであればある程、その相手の力量が高いという事だ。油断はしないでおこう…そう心の中で決めた。
「サンくんはかっわいいボディガード連れてんのな!」
それならオッケ、合格だよとフレディは言った。
サンは彼の言葉に首をかしげた。
フレディは行儀悪く机の上に座りながらサンの疑問に答える。
「ヒトリタビは大変キケンでね。やっぱり子供がやることじゃないんだわ。でもま、ちゃんと力があれば、ほら、別だから!だからサンくんは合格な!」
ひゃっひゃっひゃっと下品に笑いながらワシワシとサンの頭をなでくりまわす。
サンは抵抗するでもなく、どうも…と言って小さくため息をついた。
冷たい空気の流れた食堂に今度はフレディの笑い声が流れる。
「だから、ちっさいボディガードちゃんもヨロシクな?オレは人畜無害なただの親切な雪かきさんだから心配しないで★」
サンの腕の中にいるピエラを覗き込んだ。ピエラはフレディを睨んだ、しかしそれも一瞬で、すぐにいつものように表情が和らいだ。
「ぷぴゅう」

 プス

にこりと笑ったままピエラはフレディの鼻の頭を爪で指した。
「っぎゃあぁ!!」
「! ピエラ!」
フレディは鼻を押さえて飛びのき、サンは目を丸くしてピエラを見た。ピエラはそっぽ向いて鼻歌を口づさんでいた。
「なに、なに、なに…?!これはどぉ受け取ったらいいんだい…?」
鼻を押さえながらフレディはピエラの意図が分かるであろうサンの方へ顔を向ける。
ピエラはわざとらしくそっぽ向いたまま、ぴきゅうと鳴いた。
「…あ、はは…」
さっきのはピエラの仕返し、よくもサンを怖がらせたな、と。
サンは分かっていながらも曖昧に苦笑いで返した。
「おーい、メシ、出来たぞ〜」
和らいだような、絡まったような微妙な空気の中、マスターの声が割って入った。



食事の後、サンはフレディに連行された。
引きずられるような体勢のサンがどこへ?と尋ねると、
「どこだと思う?」
引きずっているフレディがおどけるような口調で疑問を返した。
その返事にサンは苦いコーヒーを一気飲みしたような渋い表情で、わかんないから聞いてるんですよと呟いた。
「ん?なん?」
「いいえ、別に。僕にはさっぱり検討がつかないので教えてくれると嬉しいです」
若干嫌味に聞こえるように聞こえなくもない口調でにっこりと金の髪は深紅の髪に言う。
深紅の髪は、
「サンはなにが用事でもあって?」
答えない。
「いいえ」
会話が面倒だったのか愛想をつかしたのか、質問にだけ端的に答える。
サンの答えに、じゃあ何も問題はないとフレディは満足げな顔をした。
ずるずるとサンが引きずられた後だけが雪上に残る。



「着いたよーぅ、サンくん」
「・・・」
二人は適当な路地で立ち止った。
なんの変哲もない、近くに何か店があるわけでもない、ただの路地。
しいて言うのであれば雪が積もっていた。だがそれはこの町のどこも同じだった。
「あの…フレディさん?」
「おおぅ、オレ達トモダチでしょーぅ?さん付けはタブーよ〜?♪そっちがさん付けすんならこっちもすんぞぉ?名前デラデラになるぞぉ?」
サンは自分の名前にさん付けをしてみた。
・・・。
複雑な表情をしながらひとつため息を吐いて訂正する。
「フレディ…?」
「はい?」
「ここは、なに?」
フレディは適当な民家の看板をちらりと見て、
「コニールさん家の前」
サンも同じく看板を見る。確かに看板にはコニールと印字されている。
だが、それはサンが求めていた答えと少々違う。
「・・・知り合い?」
「ん〜、親しいわけではないけど完全に友好関係がないわけではない」
「…『顔は知ってる』…?」
「それだな」
「それで、なんでここに?」
「雪かき」
「は?」
端的な答えに端的なリアクション。
そしてサンが脳に理解の信号を送るように「ゆき」と短く輪唱するとフレディはどこからか先ほどのスコップを取り出し、
「おぅ」
誇らしげに返事をした。
「・・・」
「・・・」
どちらも何も言うことなく、時が寒々と流れる。
「はぁ」
サンのため息が寒々とした空間を破る。
「どうして雪かきなん・・っ!」
ずいっと目の前にどこからか取り出されたスペアのスコップを急に突き出されのでサンは言葉をつめ、うっかり受け取る。フレディと同じに見えて、よく比べるとフレディのよりひとまわりふたまわり程小さかった。
「とにかくお前もや・れ♪」
それだけサンに言うとフレディは鼻歌まじりで雪をかき始めてしまった。
サンが何を言おうと故意的なデカイ鼻歌でかき消す始末だ。
しょうがないのでサンも渋々と雪かきを始める。

 ザクッザクッ

雪は思ったより深く、ぐっと力を入れないと重くて掘りあげる事は出来ないくらいだった。
サンが昔々にいた場所も雪が深いところだったが自ら雪かきをすることはなかった。それはそんなことしなくてもいい高い身分、というわけでなくあまり外に出してもらえなかったということ。
これまで旅をしてきた中で雪道に苦労したことは何度もあったがピエラの火でなんとかしてもらっていた。
だから雪かきは初挑戦だった。
雪をかいてはわき道に退け、また雪をかく。
それを延々くりかえす。
「は…ぁ」
サンが少しため息を吐き、上を見上げるとオデコに雪がぽつりと落ちてきた。よく見ると雪を退けたそばからうっすらとつもっている、これじゃあきりがないじゃないか…
なんでフレディはこんなことをやってるんだ?あいつは旅人でこの町とは関係なく、ここの家の人と特に親しいわけでもない…なんで…

「オイ!ふれでぃだぞっ!」
「あ、ほんとだ!」

サンが空を見上げ、考えをめぐらせている中に幼い声が舞い降りた。
声の主の方を見る。そこにはきっちりと防寒具を着込んだサンより少し下か同じくらいの子供が数人いた。
「おーぅ、オメーラ!今日も今日とてフレディ様がオメーラの快適ライフの為にスクーピングだぜー!」
「おいー、お前何様だよ!かってにやってるクセに!」
「ふれでぃ〜、あたしもいっしょにやる!貸して〜♪」
「あ、オレも!」
「おぅ!ダイカンゲイ★」
フレディはまたどこからかごろごろとスコップを子供達人数分出した。これは手品の域だろう。
喜んで受け取る子供の一人がようやくサンの存在に気付き、フレディに問う。
「なぁ、フレディ。こいつ誰だ?この町のやつじゃない」
「あぁ?あー、サンな」
さっくさっくと雪をならしながら軽快なステップでサンに近づくとわっしりとサンの頭をつかんだ。
「な、なにするんですか!?」
「こいつはサン、マイフレンド。七つの世界をまたにかけたヒトリタビの旅人さんだ」
「や、別に七つの世界をまたになんかかけてませんよ」
「たびびとさんなの!!?」
「すっげぇな!オレらとそんなかわんねーのに!」
「うっらやまっしーぃ!」
「え…と」
フレディに頭のつかまれたサンに目を輝かせた子供達が群がる。同い年くらいの子供達とこんな近くで、こんな昼の街中でなんかろくに話をしたことがないのでサンは目に見えて焦っていた。
そんなサンを見ながらフレディはにやりと笑って子供達の中にサンを放り込む。
「サンくんは人見知りだからみんな積極的に仲良くするように!」
「「はーい!」」
先生口調でフレディが子供達に言うと、子供達は律儀に元気よく返事をした。
「んじゃ、みなのもの雪かきのはじまりじゃー!」
「「はーい!」」

電灯と家からもれる明りのみが光の薄暗い世界を子供達が雪かきをしながら進む。
飽きもせず、じゃれあいながら子供達はもうかれこれ二時間近くは雪かきをし続けている。もちろんずっと同じ場所ではない。およそ町の半分ほどはもう雪かきをした場所だ。

「ねぇ、フレディ…」
サンは雪をかくスコップの手を止め、鼻歌を歌うフレディの服を引っ張った。
「なんだ?」
フレディはサンの方を見ずに、雪かきをしながら返事をした。
サンは話しかけているのにこちらを向かなかったことに少しむっとしたが問いかけを続けた。
「なんであなたはこんなことをしているの?ここはあなたと何も関係の無い訪れているだけの町なんでしょう?」
「…そんなことか」
フレディはようやくスコップの手を止め、サンに振り返ると続けた。
「なあ、お前の人生の目的はなんだ?」
「人生…の?」
問われて脳裏をよぎるのは『太陽を探すこと』…だけど、でも…出来るはずがない。
「難しく考えるなよ。例えば『偉い人になりたい』とかでも、よくよく考えるとなんで偉い人になりたいんだ?金を稼ぐためか?それだったら偉くなくても稼げるし、なんで稼ぎたいかっていうと十分な暮らしがしたいとか楽に生きたいとか…でもそれも偉い人で稼がなくても暮らしは十分に出来るし、生きてる以上完全に楽に生きるのは難しい」
「・・・何が、言いたいの?」
「ま、単直的に考えるなって事。目的のそのウラを考えるんだ。本当に『それ』が目的か…」
目的の、そのウラ…。
フレディは何が言いたいのだろう、サンは頭の中に入ってきたフレディの台詞を整理することでいっぱいだった。
フレディは小さな声で自分の言葉を輪唱するサンをじっと見つめた。
慈しむように、愛しむように。

子供の一人がフレディとサンの手が止まっていることに気付くと声を上げた。
「あー!さぼってるぅ!」
「なに!ちゃんとやれよぅ、フレディ!サン!」
一人をきっかけに子供達のブーイングが飛び交い始めるとフレディは雪にさしたスコップを勢いよく抜き、オレ様オコチャマに比べると年だから休憩が必要だったのvと言うとウィンクを残して雪かき隊の先頭へ躍り出た。暗闇の黒と雪の白のコントラストの中に浮かぶ火の粉のように髪も躍る。
サンもちゃんとやれよ、と急かされると整理のつかない不完全燃焼の頭のまま金髪の少年は渋々とスコップを握った。




「じゃ、ちゃんと寄り道しないで帰るんだぞーぅ!」
「うん!」
「わかってるっつの!」
「じゃーねー!」
宿屋の前が解散地で、フレディは散り散りに帰る子供達に大きく手を振った。
「サンも、ばいばい!」
「あ、…うん」
話しかけられ、慌てて返事をするとフレディにどやされる。
「うん、じゃねーだろ!ほら、手ェふる!」
「わ、いたいって!自分でする!」
フレディに強引に手をもぎ取られて、サンも子供達に手を振った。

子供達が散り散りに暖かい我が家に帰るとあたりは一気に冷え込むようにしんとなった。
寒さなんか感じないはずなのに思わず自らの身を抱くように腕を回した。

「どだった?」

寒い空気の中、フレディが突然問いかけてきた。
問いの真意がわからず、なにがですかと問い返すとフレディはサンの鼻をつかんで目と鼻の先の近さで再び言った。
「雪かき。どだったって聞いてんの」
何をどうどうだったかと答えればいいのかわからず、
「疲れました」
と一言返すとぷっと短く吹いて笑われた。
聞いてきたのはそっちだろうと少しむっとしてフレディを睨むと彼はいつものようににへらと笑いながらサンの背中をバシバシと叩いた。
「うんうん、イイコトイイコト!さ、オレらも帰んべー!」
エントランスまでの短い距離のハズなのにサンはまた行きのようにフレディにずるずるとひきづられた。
引きずられているのでちょうど宿屋に背を向ける形、雪かき歩いてきた路地に目を向ける形。
宿屋を出てきた時とは違ってずいぶん地面が見える。でも、雪は降り積もるのだから、明日の朝にはどうなってるかはわからないけど、

せっかく雪かきしたんだからこれで誰かが転ばなければ、いいな

こっそりと呟いた。






たいせつなたいせつなたったひとつのであい

最終章?のその1。
やけに長くてすみませー!引き際が分からなかった(さめざめ)
さぁ、結局連載全体の半分以上を占めちゃった最終章の始まりです!(嫌な)

[はじめのおわり・2]
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