暗闇で深紅が笑う。
にやり。
狙いは的確に。
素早く。
相手に反撃の隙を与えないように。
深紅が動いた。
まっすぐに目標に向かって。

そして、


「プキューーーーー!!!」
「ぎゃーーーーーー!!!」
「な、なに!?」


叫び声に起きたサンが慌てて電気をつけると、そこには…

「よ、よう、サンくん」
「フレディ、何してるんですか?」
「いや、ぴえらんが…」

ピエラに噛まれているフレディがいた。

「いや、ピエラが、じゃなくてフレディが何をしてるのか聞いたんですが?」
「ぴえらんに噛まれてる」
「その前。なんで僕の部屋に?」
「あーぁ、朝だから。起こしに来た」

フレディは自分の耳を噛んだピエラをつけたまま、窓際に行きカーテンを勢いよく開けた。
「おはよう、サンくん」
にこりと笑う。ピエラをつけたまま。
「おはよう…ございま、す」
ついサンの目元がにやける。

薄暗い朝が始まる。



フレディは朝早くからいやに元気だった。
朝からもりもりと食べ、相手の返答お構い無しに無駄に喋る。
「サンくんの今日のご予定はー?」
「…えぇと今日は別に…っと、なんであなたに言う必要が…?」
サンは言いかけて止めた。訝しげな目で焼きたての目玉焼きのゆげ越しにフレディを見る。
サンのそばでパンの欠片をかじっていたピエラが顔を上げてフレディを睨んだ。
一人と一匹の視線にさされた深紅はへらりと笑う。

「なぁに、簡単なことよ!」
コーヒーをひとすすりした後、苦いなとこぼし続ける。
「今日もサンくんをオレさまオススメメニューに連れて行こうと思って♪」

深紅の髪の青年は悪戯をする時の子供のように笑う。
『今日も』ということは昨日の雪かきも『オススメメニュー』だったのだろうか、とサンは考えた。




フレディがずるずるとサンを引きずる。昨日のように。
サンを引きずったあとがずるずると雪に残る。昨日のように。

引きずられる体勢のままぼんやりと雪を見つめる。
「昨日の雪かきする前のまんまですね…」
「あ?なん?」
「あ…いえ、雪かきなんてやっぱ意味ないのかな…って思って…」
やはり、実際なってみると自分の無意味さと無力さを実感する…

サンの言葉を聞いて、フレディがぱっとサンをつかんでいた手を離す。
当然、サンは雪の上に落ちた。
ピエラがサンのマフラーの間からぴゅんっと出て、フレディを睨んだ。
「ん、んん、ぴえらん落ち着いて〜」
深紅の彼はまず対峙する小さな竜をなだめて、金髪の少年に目を向けた。
「そう。たしかに昨日のまんまだ」
「・・・」

金色の目を深紅の目に合わせる。

「でもよく考えて、なんで昨日のまんま?本当に無駄だった?」
フレディはよく見ろと言わんばかりに手を広げた。
広げた手に導かれるようにサンはあたりを見た。

減って・・・増えた・・・から昨日のまま
では、減ってなかったら・・・?

「オレはね、サンくん。倹約家なんだ…」
サンに背を向け、語り始める。
「だから、無駄なことはしなくて。有効的なことばっかする」
フレディの正面にある電灯が強くともり、ちょうど逆光でフレディの背をかっこよく演出する。
サンがフレディの背中を見つめる。あっけに取られたように。
サンには次にフレディのする行動がちょっと予想できた。
この流れだと…

「だから、ネ★」
逆光でよく見えないが、スコップの形が見えた。

…ほら、ね。




今日も『オススメメニュー』という名の雪かきハードワークを強制された。
昨日と唯一違うのは、二日目で雪かきは少し楽になったこと。
慣れ…だろうか。
なんだか複雑な気分だ。






穏やかなる日。

最終章その2?
日にちで分けることに決定。
だから大分短かったりします。

場面は少し戻ります。混乱しないように、一応…。
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