暗闇に目を開ける。
真っ暗でないと寝れないという体質ではないがサンは寝る際には全ての明りを消す。
目を開けても暗闇だ。
ぼんやりと体を起こす。
目を閉じても開いても何も見えない暗闇に夢を馳せる。

「僉…?」

何も見えない虚無を見つめ、大事な人の名を呟く。

「夢…昔のことを夢に見るなんて…あるんだ」
ホームシックなのかなぁと付け加えて自分を笑う。
そしてベッドから起き上がり、電気をつけようとスイッチに手を伸ばした。
「…ぷ…ぅ」
途端、ピエラがぴくりと起き上がり、あたりを警戒した。

そこで理解する。
多分、そこの彼が少し僉に似ているからだ。

サンが開ける前にドアはゆっくりと開き、深紅の髪がしゅるりと室内に侵入した。





昨日と同じ一日を繰り広げようとする耳に噛まれた跡のあるフレディにサンはストップをかけた。
「今日は行く場所があるんです」
「ん、どこどこー?」
出されたベーコンエッグを頬張りながらフレディは聞く。
「色々と足りないものを買ってこないといけないので」
「あ、じゃあオレも行…」
「着いて来ないでくださいね」
サンは笑顔でフレディの言葉を遮った。
無言で見つめあうもとい、にらみ合う二人。口はもぐもぐと動かしたまま。
「案内は必要だろ?」
ごくんと口中のものを飲み込んで言う。
「いえ、別に。幸い方向音痴ではありませんので」
「それに、オレも買い物行きたいしぃ?」
フレディはサンの言い分を無視して続けた。

「買い物行くのはオレの勝手だろ?目的地が一緒なら別々で行く方がおかしい」



というワケで今日も深紅と金色は仲良く薄暗い闇の中を雪を踏みしめて歩く。

深紅はひと時もスコップを離さない。
サンは前を歩くフレディの持つスコップを見つめた。
年期が入っているようで少しボロボロだ。でも手入れは怠ってないらしく、錆はない。
ナイフを受けたような刃物系の傷が少々目立つ。
ベコっとへこんだへこみ傷もあるが、それは少々不恰好ながら裏からトンカチで叩いたように修復してある。
雪かきのみに使用しているスコップではないことは確かだ。

 ぎゅむ
「わっ」
「着いたよぉぉう?」
スコップだけ見て歩いていた所為で、店に到着して止まったフレディに気付かず彼の背中につっこんだ。そして反動で少しよろけてふらりと後ろへ倒れかける、がフレディに頭をつかまれ止まる。
「ありがとう…ございま、す」
「イエイエ」

店内はこじんまりとまとまっており、店の主人が一人イスに腰をかけていた。
金と紅の二人を一瞥し、いらっしゃいと一言言った。
フレディが先を歩く、ぼんやりとサンもそれに続いた。店は雑貨屋といったかんじで、ジャンルの枠なしに色々なものが陳列してあった。

商品を見つめながらフレディが問いかけた。
「サンくんは何買うの?」
サンが商品を見上げながら答える。
「…まず食料、干し肉と漬けた野菜と干した野菜と…スープのだしになるもの…」
サンが言い並べるものをフレディが買い物カゴにぽいっぽいっと入れていった。サンの気付かぬうちに。

「…ええと、あと、コップが壊れてたからそれもかな…で、最後かなー…?」
「あいあい、完了」
「え?」

フレディの持つ買い物カゴにはサンの買う物がぎっしりと詰まっていた。
「・・・」
「どーぞ♪」
「どうも…」
フレディから受け取る。
サンの買い物は物を探す間もなく終わった。
この行動にも何か目的が・・・?
サンは若干深読み中。

買う物を揃えられた理由なんて考えてもわからないので、サンは仕方なくぼんやりとフレディの買い物する姿を眺める。
彼はいくつかの同じようなビンを見ながら何か悩んでいる。その手にはいつもあるスコップはない。店の主人に怒られたのでスコップは傘立ての中に納まっているのだ。
やがて動きのないフレディを見ることに飽きて視線をそらす。新聞があったので手に取った。
今年の積雪量の検証…今日が誕生日の人リスト…子犬の誕生…特売のお知らせ…
かなりローカルだ。
町と町との行き来が少なく、自然と交流も少なくなるのでこの町のニュースのみ取り上げているのは仕方のないことである。
刺激の少ないほのぼのニュースの載る新聞をつまらなさ気に見つめる。
が、やはりつまらない。
そして閉じようとしかけたところ、新聞を持つ自分の手元あたりにある懸賞金の記事が目に入る。この記事のみはローカルではない。
悪人面の写真がずらりと並ぶ中、ひとつだけ写真がアンノウンのものがあった。つまり、懸賞金がかけられてるものの、誰だかわかってない。
なんて微妙なんだ…
額だけは半端ではなかった。隣に並ぶ悪人の数倍。
そのアンノウン写真の下には、一流企業のオフィスや偉い幹部の家などに入り高価な宝を強奪した、と記してある。
なんでも、門番などは彼の赤い影しか見ておらず、唯一接触したと思われる企業の関係者である見張りは全て殺されている。故に写真はアンノウン。
しかし、遺体には全てスコップのような平べったい鈍器で殴られたような跡が残ってるという…
巷では彼の赤い影とスコップにちなんで殺人鬼スコーピオンとの異名もついている。

「・・・」

サンは思わず傍の深紅に目をやってしまったが、すぐにそらした。
そして、まさか、と自分に言い聞かす。

そして次にフレディのスコップに目をやる。
ナイフを受けたような傷に何かを殴ったようなへこみ傷…
「まさか…な」
もう一度、今度は声に出して言い聞かせた。
するとフレディがなぁに?と振り返るがサンはなんでもない、とフレディにも自分にも言った。





今日も考えることが増えた。
ベッドにずぶずぶと埋まりながらサンが自分に愚痴る。


なんだかずっと悩んでる目的のそのウラと、今日の殺人鬼。


ほうっと息を吐き出し、うつぶせから仰向けになる。
白い息が舞うと共にぐるぐると悩みの渦を深くする。

ていうか、スコーピオンのことは本人に聞けばいいじゃないか。
僕にはピエラがいるんだ…いくら殺人鬼だからって殺されやしない。
ひとつのことにはそう結論付けて、

窓を開けたまま眠りに落ちる。
雪がちらちらと舞い込んだ。









あなたは一体誰なんだ。

三日目。
のんびりまったり買い物(笑)

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